少なくとも、乳牛は好ましくない成分を含んだ乾草や、消化のよくないサイレージなどをガツガツ食べようとはしない。選択の余地がないから仕方なく食べるのだ。見た目には素晴らしく出来のよい乾草でも食べようとしないことがよくある。それらの多くは成長しすぎてセンイが堅すぎたり、肥料が効きすぎて余分なミネラルが含まれてたりする。濃厚飼料なら混ぜものに気づかず何でも食べてしまうが、さすが草食動物だけあって、草に関しては目が肥えていて(鼻かも知れない)騙しが利かない。無理矢理食べさせたとしても乳量は低下する。ある意味、ビジネスとして酪農は「よい草」の代替品を常に求めてきた歴史がある。そんな折り、聞き捨てならない” 興味ある話 "が舞い込んできた。
カルシウムシアナミド(CaCN2)、つまり「石灰窒素(Nitrogen Lime)」の主要な成分。暗灰色の独特の臭いのする化学肥料について新たな情報を得ることができた。北海道で放牧酪農を手がけ、よい牧草をつくるためにKさんがたどり着いた究極の肥料がこれであった。100年まえにドイツで発明された「石灰窒素」は肥料であるとともに農薬としても登録された一風変わった化学物質である。窒素肥料としても、土の酸性改良材としても、殺菌、殺虫、除草剤としての効果もある。ただKさんが着目したのは、農薬としての効果ではなく、石灰窒素の特徴である「肥料の緩効性」。普通、化学肥料の成分は土に投入した途端に速やかに作物に吸収され、すぐに効力を失ってしまう。石灰窒素の窒素やカルシウムの肥効は作物の生育期間中ゆっくり継続する。
石灰窒素は決して珍しい肥料ではなく古くから多くの作物に利用されている。ただ種まき時に散布すると芽が枯れるので、播種の10日前、2週間前に施肥しておかねばならない。Kさんの場合は永年牧草なので、春先に反あたり20キロを撒くのだそうだ。何が変わるのかといえば作物の「カルシウム」含有が高くなりミネラルバランスがグッとよくなる。「それでどうした?」という声が聞かれるかも知れないが。実はこれ大変な発見!人のよいKさんは「簡単には他人に教えられない」としながらも発見に至る苦労話を聞かせてくれた。下の表はKさんが2008年と2009年に収穫したチモシーサイレージの分析値。
牛が必要なカルシウムは、TMR飼料へ炭酸カルシウムを足せばよい。簡単、安い! 土壌に必要なカルシウムなら畑に石灰をバラまけばよい。だが緻密な土壌分析を行って、その分を畑に補っても、できあがった牧草のミネラルバランスは簡単には改善されない。土には土のメカニズムがあり、作物の生育にも複雑な相互作用がある。Kさんのサイレージの飼料分析に添付されたグラフは、ある時点からミネラルバランスが見事に改善された。テタニー比(K/Ca+Mg)が北海道の平均を下回り、そこだけ凹んでいる。これはカリの含有をカルシウムとマグネシウムの和で割った(%ではなく質量で計算)数値がテタニーの安全値2.2よりもかなり下回ることを証明している。
粗飼料といえば、コーンサイレージについてはテタニーが問題にはされることはない。それはコーンは元来カリウム含有の少ない作物だからだ。だが牛に好まれる、よいサイレージという点に注目すると、なぜかカルシウムが高くリンが低いという共通点がある。あまり気にかけていない知れないが、サイレージの発酵品質がよいものでもカルシウムとリンの比率が逆転したサイレージ・・・つまりカルシウムの低いものはかなり多い、この結果、俄然「乳が出ない」、「牛の成績が思わしくない」どうしてだろうと首をひねった経験はないだろうか。 「カルシウムの高いサイレージや乾草を牛は好む!」だから、粗飼料中のカルシウムを高めることはとても大切だと思えるのだ。Kさんの経験と推論とに間違いがなければ、どうやら重要なヒントが見えてきた。「石灰窒素」には他の石灰などが持ち合わせない、植物のカルシウムを高めるための「何かのメカニズム」?が隠されている。
テタニー比はミネラル含有の%に以下の係数を掛け、当量(meq)を計算する。
サンプルCのチモシーを例にしたテタニー比の計算は:
K 2.19 % なら [ 2.19 × 25.6 = 56.064 meq/100g ]
Ca 0.8 % なら [ 0.80 × 49.9 = 39.92 meq/100g ]
Mg 0.21 % なら [ 0.21 × 82.3 = 17.283 meq/100g ]
[ テタニー比 ] K/(Ca+Mg) = 56.064 / ( 39.92 + 17.283 ) = 0.98 安全値とされる2.2に比べ、たっぷり余裕がある。
参考資料:




