2010/01/21

レトロスペクティブ スタディ




新年早々に居酒屋で、繁殖プロの獣医さんと議論を交わした。今やCPMデーリィV3の飼料計算がスパルタンが紹介されたときと同様に、酪農家や獣医さんの間で信仰になっているのではないか?とか、酪農誌の記事のタイトルは魅力的だが、説得力のあるデータや結論が欠けていないか?など、生意気な本音をぶつけてみた。


飼料設計が「芸術の分野」とも言われる所以も知識に秀でた単独の学者がするよりも、「勘のいいエサ屋と腕のいい酪農家」との共同作業の方が「いいもの」ができ上がるからではないだろうか。博学な獣医さん等によってCPMデーリィが農場に持ち込まれると、「勘のいいエサ屋さん」の活躍の場が危うくなる。更に追い打ちをかけるのは、飼料設計に目覚めた経営者が「数字の追求」に生き甲斐を感じ、牛舎での観察眼に陰りがでてしまうことだ。


日本人は頭が良いので誰でも大抵の専門家になり得る素質は持っている。TMR飼料の答をはじき出してくれる最新の飼料設計ソフトは魅力的だ。でも「牛は数字を食べるのではなく、エサを食べる」おいしい餌を食べれば元気になり、まずい餌を食べれば調子が悪い。「原料をどう組み合わせるか」より「どの原料を使うか」の方が大事だ。数字上のロジックより「飼料原料の品定め」と「牛の喰いっぷり」に注目した設計が重要ではないかと日頃感じている。勤勉な営業マンは自分の商品はもとよりライバル他社の商品にまで精通していて、常に市場の飼料の事情にもアンテナを張っている。それが生活に直接関わるからである。毎年つくるサイレージの出来具合も、輸入乾草の流通に至るまで、営業で歩く人たちは耳をそばだてている。はっきり言えることは営業マンが酪農現場の状況に一番詳しい!他方、オレは牛のケツを掴んでいるから、飼料設計を他の誰にも許さないという豪腕な獣医さん達もいる。いずれにしても選択権は農場側にあるのだが、みんなで情報を分かち合えばもっと成績を高めることができそうだ。




酪農で、びっくり仰天する話題がないせいかも知れないが。そもそも、そんなに大きなな発見が度々あるはずはなく、毎日コツコツ小さなことの積み重ねが成功への近道であることは間違いがない。


酪農の技術ですぐにも利用が可能で確実に利益をもたらす情報は「レトロ・スペクティブ スタディ」(懐古的研究、または統計)だということを獣医さんから教わった。要するに過去のデータを分析して経営に役に立つことを選び出す作業だ。居酒屋には相応しくない地味な会話だが、「レトロ・スペクティブ」・・・と専門用語を使うと新鮮な響きがあるので、すかさずメモに取った。反対に前向きの研究のことをプロスペクティブ スタディと呼び、学者にとってはこちらの方が研究としては格が上らしい。レトロスペクティブ研究の結果はすぐにでも採用する価値があるが、前向きの革新的な発見は、あわてて農場で採用しなくても誰かが試してからでもけっして遅くはない。



酪農経営ではレトロ・スペクティブな情報の方が貴重だと思う。データをよく分析すれば良いことばかりではなく、マイナスな要素も発見できる。経営にとってマイナスなことは速やかに止めなければならない。前述した「フレッシュチェック」の記事は正に6,900頭分の繁殖データを基にしたレトロ・スペクティブな手法を使った面白い発見である。デーリィCOMP305の優れたソフトと蓄積されたデータがあってこそできた研究だ。


農場でも、牛群検定、牛群繁殖管理、TMR追跡管理のデータなどを統計、分析すれば面白い傾向が判明するのではないかと思いを馳せる。つまり1.乳量(成分を含む)、2.繁殖成績、 3.飼料の給与のデータを蓄積していけば農場の成績が明らかにになるだけでなく、何か新しい発見につながる臭いがする。問題は農場のデータを記録するシステムになっているか?データを保存しているか?どうかにも関わる。新しい情報ばかりを求めても、過去の情報を整理しないと情報に振り回されるだけで、研究農場と化してしまう。ましてや牛の耳タッグが個体識別情報だけでは発情確認さえ難しい。不況を乗り切るにはもっと手堅く攻める必要がある